けい酸塩系表面含浸材によるコンクリートへのアルカリ性付与
けい酸塩系表面含浸材による中性化したコンクリートへのアルカリ性付与
自社製品の中性化を促進させたコンクリートでの試験結果より、期待される程のコンクリートへのアルカリ性付与は出来ないと考えております。
土木学会「けい酸塩系表面含浸工法の設計施工指針(案)」より
土木学会「けい酸塩系表面含浸工法の設計施工指針(案)」の「解説 表4.4.1 新設または潜伏期にある構造物を対象とする場合の適用範囲の目安」によりますと、「アルカリ性付与性」の項目について【固化型】・【反応型】ともに「○」になっています。
しかしながら、その効果は限定的であり、鉄筋の防錆に寄与する程のコンクリートへのアルカリ性付与が出来るとは言えないと考えています。
【反応型】による中性化したコンクリートへのアルカリ性付与
中性化により化学反応が発生し難く、アルカリ性を呈するC-S-Hゲルを充分に生成することが難しいので、コンクリートへのアルカリ性付与も難しいと考えております
一般的な【けい酸塩系表面含浸材】である【反応型】は、コンクリートの表面から内部に含浸し、主成分であるけい酸ナトリウム・けい酸カリウムが、コンクリート表層部の水酸化カルシウムと化学反応をすることでセメント水和物に組成の近いC-S-Hゲルを生成しコンクリート表層部を緻密化する薬剤です。
セメント水和物に組成の近いC-S-Hゲルがアルカリ性を呈するため、【けい酸塩系表面含浸材】塗布によるコンクリートへのアルカリ性付与が出来ると考えられているのではないかと思われます。
アルカリ性付与が必要なコンクリート構造物は、当然中性化したコンクリート構造物です。
中性化したコンクリートは水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化しているので、【反応型】と水酸化カルシウムとの化学反応が発生し難く、C-S-Hゲルを生成することが困難なので、コンクリートへのアルカリ性付与も難しいと考えております。
【固化型】による中性化したコンクリートへのアルカリ性付与
自社製品で試験したところアルカリ性付与は出来ませんでした
固化型けい酸塩系表面含浸材は、コンクリート表面から内部に含浸し、主成分であるけい酸リチウムが含浸の初期段階で一部が水酸化カルシウムと反応しC-S-Hゲルを生成し、その後未反応の主成分が乾燥により固化し難溶性固化物を生成しコンクリート表層部を緻密化する薬剤です。
中性化したコンクリートは、水酸化カルシウムが炭酸カルシウムに変化しているので、含浸の初期段階での主成分の一部と水酸化カルシウムの化学反応が発生し難く、C-S-Hゲルを生成することが困難です。
一方で未反応の主成分の乾燥により固化し生成される難溶性固化物は、中性化の影響を受けることなく生成されます。
アルカリ性を呈するC-S-Hゲルを生成出来なくても、難溶性固化物によりアルカリ性付与が可能かと思われたかもしれませんが、自社製品で試験したところアルカリ性付与は出来ませんでした。
自社製品(固化型)でのアルカリ性付与確認試験
1. 試験概要
中性化促進後、固化型けい酸塩系表面含浸材を塗布した試験体での透水量試験終了後に、試験体を割裂し試薬で中性化状況を確認した。
2. 試験体
基板
コンクリート基板 普通ポルドランドセメント使用
配合:水セメント比(W/C)= 55 %
寸法:角柱100×100×400 mm
JSCE-K 572に準拠して作成
表面含浸材
固化型けい酸リチウム系表面含浸材:L-OSMO固化型KK(標準塗布量300 g/㎡)
3. 試験方法
JSCE-K 572に準拠して作成した基板を、JIS A 1153に準拠して、温度20±2 ℃、相対湿度60±5 %、二酸化炭素濃度5±0.2 %の条件下で14日間中性化を促進させた。促進中性化終了後、基板の片面に【L-OSMO固化型KK】を標準量塗布し、反対側を無塗布とし試験面とした。
【L-OSMO固化型KK】塗布後7日間経過後、透水量試験器を貼付け、注水後試験を開始した。JSCE-K 572に準じて7日間経過後の透水量を同じ試験体の無塗布面、塗布面で比較し透水抑制率を算出した。
透水量試験終了後に試験体を割裂し、フェノールフタレイン溶液で中性化状況を確認した。
4. 透水量試験結果
7日間経過後の透水量を表2に示す。
固化型けい酸塩系表面含浸材による中性化を促進させたコンクリートの遮水性向上により、緻密化が確認された。主成分であるけい酸リチウムの乾燥により生成された難溶性固化物が、表層部が中性化したコンクリートを改質(緻密化)したと思われる。
5. アルカリ性付与確認試験結果
透水量試験終了後の試験体を割裂し、断面の中性化の進行の状況を確認した。
コンクリート表層部が呈色しておらず、固化型けい酸塩系表面含浸材塗布によるアルカリ性付与が出来ていないことを確認した。
【L-OSMO固化型KK】の乾燥固形分量は58 g/㎡であり、【けい酸塩系表面含浸材】として多い部類である。遮水性が向上するほどの主成分をコンクリート表層部に供給出来ているにもかかわらず、アルカリ度の回復には至らないことが確認された。
まとめ
【L-OSMO固化型KK】は、アルカリ度の回復効果はありませんが、コンクリート表層部の緻密化により水分の侵入を抑制するので中性化対策に効果的です
固化型けい酸塩系表面含浸材【L-OSMO固化型KK】は、コンクリート表層部を緻密化、0.2 mm以下のひび割れを閉塞することで劣化因子の侵入を抑制し、既設コンクリート構造物の予防保全・長寿命化に貢献する材料ですが、アルカリ性付与による鉄筋の不導体被膜の破壊の抑制を目的とした使用はお勧め出来ません。
【L-OSMO固化型KK】による中性化したコンクリートへのアルカリ性付与はできませんが、コンクリート表層部の改質(緻密化)による劣化因子(水分・塩化物イオン・二酸化炭素)の侵入抑制は問題なくできるので鉄筋の錆の進展の抑制に貢献します。