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農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】について
農林水産省 2023年3月改訂 新技術の取り込み「表面含浸工法」

農林水産省 2023年3月改訂 新技術の取り込み「表面含浸工法」

2023年3月農林水産省より「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】」が改訂され、新技術の取り込みとして「表面含浸工法」の適用範囲や工法に要求される品質規格が新たに規定されました。同マニュアルは2015年4月に既存の水利ストックを活かすための補修・補強工事に関する技術指針を迅速に整備するため策定されました。


【けい酸塩系表面含浸材】に関するトピックス

表面含浸材の適用不可となる条件



けい酸塩系表面含浸工法の効果が期待される期間は、10年程度


コンクリート開水路の接水部と気中部が、けい酸塩系表面含浸工法の対象箇所です。


接水部への適用については、加圧透水性試験での効果確認が必要です。


けい酸塩系表面含浸工法に使用する材料・工法の品質規格値(案)


【反応型】と【固化型】それぞれに規定されました。


無機系表面被覆工法の補助工法


1.母材の品質向上


ポリマーセメントモルタル等を施工する下地コンクリートに【けい酸塩系表面含浸材】を塗布する工法。(含浸材塗布後の母材が付着強さ試験を満足していること)


2.無機系被覆材の品質向上


ポリマーセメントモルタル等の上から【けい酸塩系表面含浸材】を塗布する工法。


けい酸塩系表面含浸工法のマニュアルでの位置付け

同マニュアルでは、けい酸塩系表面含浸工法を適用工法としています。


シラン系表面含浸工法は、接水部における効果発揮の実績が乏しく、現時点では適用性等の判断が出来ないことから、適用工法からは対象外とし、参考工法に位置付けています。


けい酸塩系表面含浸工法の概要と特徴

けい酸塩系表面含浸工法は、コンクリート表層部の組織を改質・緻密化し、劣化因子の侵入を抑制することでコンクリートの耐久性を回復又は向上させることを目的とし、表面含浸材をコンクリート表面から含浸させる工法である。


また、けい酸塩系表面含浸工法の大きな特徴としては、①施工が比較的容易であること、②繰返し施工が可能であること,③劣化を促進する等の副作用が小さいことが挙げられる。


このように、けい酸塩系表面含浸工法は、工法の効果は表面被覆工法等の他工法に較べて顕著な効果が得られるとはいえないが,施工がし易く使い易い工法といえる。このような特徴から、他の工法と組み合わせた補助工法として、あるいは対策段階としては潜伏期に適した工法といえる。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.235頁.9(1)工法の概要・特徴より


農業用コンクリート開水路における表面含浸材の使い分け


 


【反応型】は、既設コンクリート構造物(中性化が進行している)には効果的ではありません。コンクリート表層部の水酸化カルシウムが消失している状態(中性化)では、化学反応が発生し難く、緻密化することができないのでご注意ください。


※市販されている【けい酸塩系表面含浸材】は、ほぼ全て【反応型】に分類される薬剤です。


けい酸塩系表面含浸工法の効果が期待される期間【10年程度】

【解説】


9(1)ア(ア) 適用可能性について


 けい酸塩系表面含浸工法の適用可能性について、表 9.1-2 で示した工法に要求される効果以外の効果について、以下に示す。


 本書で対象とする変状は、表 9.1-2 に示した「中性化」及び「凍害」とする。なお、けい酸塩系表面含浸工法の効果が期待される期間は、10年(9(2)  工法の要求性能・品質規格)としているが、現時点ではけい酸塩系表面含浸工法に耐摩耗性を期待しないことから、摩耗速度の速い水路については工法の適用について検討が必要である。


 また、開水路のアルカリシリカ反応対策及び塩害対策として外部からの劣化因子の侵入抑制効果を期待する場合、補修対象が潜伏期の劣化状態であれば、適用を検討することができる。


 けい酸塩系表面含浸工法のうち、反応型は表面含浸材の反応機構(表 9.1-5  表面含浸材の概要)から、中性化が進行し水酸化カルシウムと炭酸化反応した領域では表面含浸材の性能が発現しないため、適用範囲外となる。適用工法の種類及び施工する母材の状態を十分把握し、適用性について検討すること。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.238頁. 9(1)ア(ア) 適用可能性についてより


 



 


接水部への【けい酸塩系表面含浸材】の適用

加圧透水性試験は、【けい酸塩系表面含浸材】を評価する上で重要な試験項目となります

【けい酸塩系表面含浸材】は、コンクリート表層部を緻密化する改質機構により、水掛かり部への適用性が高い材料です。同マニュアルでは、【けい酸塩系表面含浸材】の接水部への適用性は「あり」としており、JSCE-K 572加圧透水性試験で加圧水圧下での効果確認することを義務付けています。


 


9(1)ア(イ)1) 流水の影響を受ける接水部への各材料の適用性について


 表面含浸工法は含有されている表面含浸材等の材料特性や反応機構により、期待される効果が異なる。そのため、工法の適用可能性に関して、適用対象範囲を気中部及び接水部に分けて検討する。


 かんがい期非かんがい期とも流水の影響を受けない範囲を気中部とし、かんがい期非かんがい期等による水位変動があるが流水による影響を受けることが想定される範囲を接水部と規定する。


 なお、けい酸塩系表面含浸工法(反応型・固化型)は、加圧透水試験(「けい酸塩系表面含浸材の試験方法(案)JSCE-K572」の1試験)にて、加圧水圧下でも表面含浸材の効果を確認すること


 また、けい酸塩系表面含浸工法(反応型)は、開水路での追跡調査から接水部での適用性が確認されている。なお、けい酸塩系表面含浸工法(固化型)は、農業用コンクリート開水路での検証事例は少ないものの、表面含浸材の劣化因子を遮断する機構を考慮し、反応型と同様に接水部でも適用可能と判断した。


 以上より、けい酸塩系の表面含浸工法は反応型、固化型とも、接水部への適用性は「あり」とした。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.240頁. 9(1)ア(イ)1) 流水の影響を受ける接水部への各材料の適用性についてより


【けい酸塩系表面含浸材】に品質規格値(案)

反応型けい酸塩系表面含浸材と固化型けい酸塩系表面含浸材それぞれに品質規格値(案)が定められました。固化型けい酸塩系表面含浸材の方が厳しい規格値となっています。


照査方法には、土木学会規準のJSCE-K 572-2018が用いられています。


 


JSCE-K 572-2018について


2012年土木学会よりけい酸塩系表面含浸工法の設計、施工ならびに、けい酸塩系表面含浸工法を適用したコンクリートの維持管理に関する標準として「けい酸塩系表面含浸工法の設計施工指針(案)」コンクリートライブラリー137号が刊行されました。


【けい酸塩系表面含浸材】の設計時の照査に必要な試験方法として「けい酸塩系表面含浸材の試験方法(案)」JSCE-K 572も定められました。(2018年改訂JSCE-K 572-2018)


 


品質規格値(案)【反応型】


9(2)ア けい酸塩系表面含浸工法(反応型)


けい酸塩系表面含浸工法(反応型)に使用する材料・工法は、表 9.2-1 の品質規格を満足しなければならない。



*1 品質規格値(案)は、JSCE-K 572-2018 による室内試験での規格値となる。


なお、補修の効果が期待される期間は、上記照査方法として示している室内試験と同様に新設構造物に対する効果として、供試体試験結果等から10年程度を見込む。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.246頁. 表 9.2-1 けい酸塩系表面含浸工法(反応型)に使用する材料・工法の品質規格より


 


品質規格値(案)【固化型】


9(2)イ けい酸塩系表面含浸工法(固化型)


けい酸塩系表面含浸工法(固化型)に使用する材料・工法は、表 9.2-3 の品質規格を満足しなければならない。



*1 品質規格値(案)は、JSCE-K 572-2018 による室内試験での規格値となる。


なお、補修の効果が期待される期間は、上記照査方法として示している室内試験と同様に新設構造物に対する効果として、供試体試験結果等から10年程度を見込む。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.251頁. 表 9.2-3 けい酸塩系表面含浸工法(固化型)に使用する材料・工法の品質規格より


けい酸塩系表面含浸材工法と他工法との併用

【けい酸塩系表面含浸材】をポリマーセメントモルタル等の表面または、下地コンクリートに適用することでコンクリート構造物の長寿命化が期待できます。


【解説】


5(1)オ(ア) 適用目的及び効果


 無機系表面被覆工法の補助工法は、無機系被覆工法の薄肉化や耐久性向上を目的として、無機系被覆工に表面含浸材を塗布する方法である。ここで使用する表面含浸材は母材や無機系表面被覆工を緻密化することを目的として塗布する。


 本書では、目的別に以下 2つを補助工法として想定する。


①母材の品質向上:母材に直接塗布し、表面を改質する工法


②無機系表面被覆材の品質向上:無機系表面被覆材の表面に塗布する工法



出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.119頁. 5(1)オ補助工法より


 


5(1)オ(イ) 要求性能・品質規格


要求性能・品質規格に関しては、工法別に以下の扱いとする。


①母材表面品質改質の場合


 含浸材が表面含浸工の品質規格を満たすこと。ただし、含浸材塗布後の母材が付着強さ試験(4(3)イ(ア)1)現場試験施工)を満たすこと。


②無機系表面被覆材の品質向上の場合


 併用する両工法(無機系表面被覆工法、表面含浸工法)の品質規格を満たすこと。


 無機系表面被覆工法は「5(1)イ 工法の要求性能・品質規格」で定められている品質規格、表面含浸工法は「9(2) 工法の要求性能・品質規格」を参照し、定められている品質規格を満足すること。


 


5(1)オ(ウ) 施工


 表面含浸工法の施工方法に基づき施工する。工法の施工については「9(3) 工法の施工」を参照されたい。


 ただし、無機系表面被覆工法施工時の母材表面品質改質を目的とする「補助工法 ①母材表面品質改質」の場合には、塗布量過多等材料がコンクリートに浸透しきらず表面に残ることによって、逆に付着強度を損なう恐れもある。このため、下地処理材としての適用にあたっては、含浸材塗布後の母材表面の洗浄の検討や、事前に適用性及び仕様等を十分に確認すること。


 なお、けい酸リチウムの占める割合が大きい含浸材については、ポリマーセメントモルタル(PCM)への含浸材の浸透が難しくなり、所定の効果を発揮しない場合があるため、適用する材料の組み合わせについては、材料メーカーへ問い合わせを行うこと。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.120頁. 5(1)オ(イ) 要求性能・品質規格. 5(1)オ(ウ) 施工より


 



出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.236頁. 図 9.1-1 表面含浸材の使用目的による「表面含浸工法」及び「補助工法」の概要より


けい酸塩系表面含浸工法施工前の下地処理工について

1.下地処理工(洗浄工、劣化部除去工)


①表面含浸材の塗布前に、含浸効果を高めるために必要に応じて清掃を目的とした高圧洗浄を行うものとする。


②劣化因子を含有した部分及び脆弱部分のコンクリートを除去する劣化部除去工を必要に応じて併用する場合もある。なお、劣化部除去工は①の高圧洗浄で実施しても良い


 


2.前処理工(ひび割れ補修工法、断面修復工法、不陸調整工)


①表面含浸工法の適用可能なひび割れ幅は原則として 0.2 mm 未満であるため、0.2 mm以上のひび割れがある場合にはひび割れ補修工を適用する。


けい酸塩系表面含浸工法は、表層部の緻密化を目的として適用される工法であるため、幅 0.2 mm 程度以下の微細なひび割れであれば各種劣化因子の侵入抑制効果が期待できる。しかし、幅 0.2mm を超える大きなひび割れ幅の場合や、挙動が大きい場合、貫通している場合には効果を期待することは難しいため、必要に応じてひび割れ補修工法を適用する


②下地処理後、既設水路躯体表面に不陸がある場合等、躯体断面の復旧及び表面を平滑にする必要がある場合もある。その際は、必要に応じて断面復旧工及び不陸調整工を行う。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.258~259頁. 9(3) 工法の施工より


経年劣化したコンクリートへの含浸深さの規格値について

9(4) 含浸工法適用時の留意事項について


9(4)ア 経年劣化したコンクリートへの含浸深さの規格値について


 表面含浸工法の品質規格において、「含浸深さ」の品質規格値が定められているが、(株)高速道路総合技術研究所が出版している「設計要領」や、(公社)土木学会指針等で主に対象としているのは新設コンクリートであり、コンクリート構造物(主に橋梁)に対する予防保全段階での適用を想定している。


 一方、新設コンクリートと異なり、既設コンクリートでは、反応機構上、表層を改質するためのコンクリート成分が変質、消失している場合も十分に考えられるため、所定の機能が十分に付与できない可能性がある。


 特に、けい酸塩系表面含浸工法(反応型)では、一般にコンクリート表層の改質に必要な水酸化カルシウムが経年劣化(中性化、溶出)により消失していれば、含浸深さがあったとしても十分な機能が付与できないことが知られている


 上記について、農業用コンクリート開水路における実証データが乏しく、どの程度の含浸深さがあれば効果が期待できるのか、補修の効果が期待される期間はどの程度なのかについて十分な検証ができていない状況である。


 そのため、現在の含浸深さの規格値について施工現場でのデータを踏まえ、必要に応じて見直すことが望ましい。


出典:農林水産省.農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】.2023年.264頁. 9(4)ア 経年劣化したコンクリートへの含浸深さの規格値についてより


【L-OSMO】シリーズのコンクリート開水路への適用について

【L-OSMO】シリーズは、品質規格値(案)をすべて満足しています

加圧透水性試験もすべての製品で実施し、加圧水圧下での効果確認もしております

固化型けい酸リチウム系表面含浸材【L-OSMO固化型KK】については、けい酸リチウム系の表面含浸材ではありますが、PCMとの付着性に問題がないこと、PCMの品質を向上することを付着強さ試験、透水量試験により確認しております。


現場試験施工の際は、サンプルをご提供しますので相性確認をお願いします


※【反応型】については、中性化が進行したコンクリートには適用不可となります。


 


 


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