02.けい酸塩系表面含浸材の改質機構(メカニズム)
固化型けい酸塩系表面含浸材と反応型けい酸塩系表面含浸材の違い
けい酸塩系表面含浸材は【固化型】と【反応型】に分類されます
【固化型】:既設コンクリート構造物の予防保全・長寿命化
【反応型】:新設コンクリート構造物の予防保全・長寿命化
- コンクリート表層部を緻密化し、ひび割れを閉塞するので、水掛かり・ひび割れ部にも有効です。
- コンクリート表層部を副作用なく改質できるので、再施工が容易・他工法との併用が可能です。
- 施工後の外観の変化がなく、コンクリートの変状を目視で確認できます。
- 他の補修工法に比べ手軽に施工できコストパフォーマンスもよいです。
固化型けい酸塩系表面含浸材の改質機構(メカニズム)
主成分:けい酸リチウム
表層部が中性化したコンクリートでも、改質効果が期待できる
基本的な改質機構
コンクリート表面に塗布した薬剤が、コンクリート表層部の空隙、微細クラックから内部に含浸します。
含浸の初期段階で主成分の一部が水酸化カルシウムと反応した後、主成分の乾燥により生成される難溶性固化物が、コンクリート表層部の微細な空隙や0.2 mm以下のひび割れを充填し緻密化することで、劣化因子(水分・塩化物イオン・二酸化炭素)の侵入を抑制します。
表層部が中性化したコンクリートでの改質機構
中性化によりコンクリートの表層部の水酸化カルシウムが消失している状況でも、主成分の乾燥により生成される難溶性固化物がコンクリート表層部の緻密化します。
反応型けい酸塩系表面含浸材の改質機構(メカニズム)
主成分:けい酸ナトリウム・けい酸カリウム
水酸化カルシウムとの再反応性があり、長期間改質効果が期待できる
表層部が中性化したコンクリートでは、化学反応が発生し難く、改質効果が期待できない
基本的な改質機構
コンクリート表面に塗布した薬剤がコンクリート表層部の空隙、微細クラックから内部に含浸します。
主成分とコンクリート中の水酸化カルシウムが反応して、セメント水和物に組成の近いC-S-Hゲルを生成し、コンクリート表層部の微細な空隙や0.2 mm以下のひび割れを充填し緻密化することで、劣化因子(水分・塩化物イオン・二酸化炭素)の侵入を抑制します。
施工後もコンクリート中に残存している未反応の薬剤には再反応性があり、水分が供給されると再度溶解し、水酸化カルシウムと反応します。水酸化カルシウムとの反応を繰り返すことにより、長期的に空隙を充填することができます。
表層部が中性化したコンクリートでの改質機構
中性化によりコンクリート表層部の水酸化カルシウムが消失している状態では、化学反応が発生し難く、コンクリートを改質(緻密化)することができないのでご注意ください。
中性化について
コンクリート表層部の水酸化カルシウムが消失していると、化学反応が発生し難いので
【けい酸塩系表面含浸材】の主成分は、コンクリート中で乾燥します
中性化の主たる原因は、大気中の二酸化炭素のコンクリート表面から内部への拡散です。
コンクリート中の水酸化カルシウムが、二酸化炭素と化学反応することにより炭酸カルシウムに変化します。
化学式は以下の通りです。
Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O
(水酸化カルシウム) (炭酸カルシウム)
中性化したコンクリート表層部の水酸化カルシウムは炭酸カルシウムに変化しているので、【けい酸塩系表面含浸材】の主成分は反応する相手が存在せず、化学反応が発生し難いです。
含浸した【けい酸塩系表面含浸材】の主成分が、ただコンクリート中で乾燥するだけです。
コンクリート中で乾燥した【けい酸塩系表面含浸材】の効果
【固化型】:乾燥固形分が難溶性なので、劣化因子の侵入を抑制できる
主成分であるけい酸リチウムは、乾燥により固化し難溶性を示します。乾燥した主成分(難溶性固化物)によりコンクリート表層部の緻密化し、劣化因子(水分・塩化物イオン・二酸化炭素)の侵入を抑制できます。
【反応型】:乾燥固形分が可溶性なので、劣化因子の侵入を抑制できない
主成分であるけい酸ナトリウム・けい酸カリウムは、水酸化カルシウムが消失していると、化学反応によるC-S-Hゲルの生成が困難です。乾燥した主成分は可溶性のため、水分が供給されると溶けるため主な劣化因子である水分の侵入を抑制し難いです。
表層部が中性化したコンクリートへの【反応型】の適用は効果的ではないので、【固化型】の適用をお勧めします。
農林水産省マニュアルより
農林水産省「農業水利施設の補修・補強工事に関するマニュアル【開水路編】」
【反応型】が「適用不可となる条件」として
「中性化が進行し水酸化カルシウムと反応しない領域」と案内がでています
開水路 = 水と接するコンクリート構造物
【シラン系表面含浸材】が「適用不可となる条件」として「接水部」と案内がでています。
種類判定試験【土木学会規準JSCE-K 572】
【固化型】と【反応型】の判定試験(試験は2段階)
試験により確認される【けい酸塩系表面含浸材】の性質
【固化型】:乾燥固形分の難溶性
【反応型】:乾燥固形分の可溶性と水酸化カルシウムとの再反応性
手順1. 乾燥固形分の溶解性の確認
温度105±5 ℃の恒温槽を用いて【けい酸塩系表面含浸材】を乾燥し得られた乾燥固形分を粉砕し、純水に溶かし72時間後溶解しているか確認します。
(1)乾燥固形分の沈殿物が残り、乾燥固形分が難溶性である場合
→固化型けい酸塩系表面含浸材と判定
(2)乾燥固形分が溶解し、乾燥固形分が可溶性である場合
→手順2に移ります
【手順1.(1)の様子】
沈殿物が残り、乾燥固形分が難溶性なので【固化型】と判定
【手順1.(2)の様子】
乾燥固形分が溶解し、乾燥固形分が可溶性と判定
※この時点では【反応型】と判定されていないので注意
手順2. 乾燥固形分水溶液とセメントペースト片の反応性確認試験
乾燥固形分水溶液(手順1の②で得られた乾燥固形分が溶解した液)をろ過して得られたろ液にセメントペースト片を投入して白濁状態を確認します。(最長28日間観察)
(1)白濁がある場合
→反応型けい酸塩系表面含浸材と判定
(2)白濁がない場合
→けい酸塩系表面含浸材以外の材料と判定
【手順2.(1)の様子】
乾燥固形分水溶液にセメントペースト片投入後、白濁したので【反応型】と判定
【けい酸塩系表面含浸材】の判定の流れ(土木学会CL137号より)
【固化型】と【反応型】の判定の流れ(土木学会CL137号より)
【けい酸塩系表面含浸材】の主成分と改質機構の関連(土木学会CL137号より)
【注意】けい酸リチウム配合タイプの表面含浸材 =【固化型】とは限りません
市販のけい酸塩混合型表面含浸材の【固化型】と【反応型】の判定は、メーカー公表の配合している成分情報のみでなく、種類判定試験結果も参照の上判断をお願いします
当社のけい酸塩混合型表面含浸材【L-OSMO反応型SG】(けい酸リチウム・けい酸ナトリウム・けい酸カリウム配合)は、けい酸リチウムを成分に含んでおりますが【反応型】です。
【けい酸塩系表面含浸材】の主成分と水酸化カルシウム反応式の例
主成分としてのけい酸リチウムと水酸化カルシウムの反応式の例
Li 2 O・SiO 2 + x Ca( OH) 2 +y H 2 O → x Ca O・Si O 2 ・z H 2 O + 2 Li OH+( x+y- z- 1 ) H 2 O
(けい酸リチウム) (水酸化カルシウム) (C-S-H ゲル)
主成分としてのけい酸ナトリウムと水酸化カルシウムの反応式の例
Na 2 O・SiO 2 + x Ca( OH) 2 +y H 2 O → x Ca O・SiO 2 ・z H 2 O + 2Na OH+( x+y- z- 1 ) H 2 O
(けい酸ナトリウム) (水酸化カルシウム) (C-S-H ゲル)
主成分としてのけい酸カリウムと水酸化カルシウムの反応式の例
K 2 O・SiO 2 + x Ca( OH) 2 +y H 2 O → x C a O ・Si O 2 ・z H 2 O + 2 KOH+( x+ y- z- 1 ) H 2 O
(けい酸カリウム) (水酸化カルシウム) (C-S-H ゲル)
出典:土木学会.けい酸塩系表面含浸工法の設計施工指針(案).2012年.10頁2.2けい酸塩系表面含浸材の基本性質より
まとめ
【固化型】と【反応型】を使い分けて予防保全・長寿命化にお役立てください
【固化型】:既設コンクリート構造物の予防保全・長寿命化
【反応型】:新設コンクリート構造物の予防保全・長寿命化
【固化型】は、中性化によりコンクリートの表層部の水酸化カルシウムが消失している状況でも、主成分の乾燥により生成される難溶性固化物が、コンクリート表層部を改質(緻密化)します。
【反応型】は、水酸化カルシウムとの再反応性があり長期間効果を期待できますが、中性化によりコンクリート表層部の水酸化カルシウムが消失している状態では、化学反応が発生し難く、コンクリート表層部を改質(緻密化)することができないのでご注意ください。
【けい酸塩系表面含浸材】の特徴まとめ
- コンクリート表層部を緻密化し、劣化因子の侵入を抑制します。
- 0.2 mm以下のひび割れを閉塞します。
- コンクリート表層部を副作用なく改質します。
- 水掛かり・ひび割れ部にも有効です。
- 再施工が容易です。
- 他工法との併用が可能です。
- 施工後の外観の変化がなく、コンクリートの変状を目視で確認できます。
- 他の補修工法に比べ手軽に施工できコストパフォーマンスもよいです。